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2006年1月10日
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2006年1月10日 グループホーム火災についての考察 〜福祉住環境コーディネーターとして。惨事を教訓に〜 |
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2006年1月8日未明、長崎県大村市でグループホーム「やすらぎの里さくら館」で火災があり、 7名の方が死亡しました。 まことに痛ましい事故で、心より冥福をお祈りいたします。 ご家族にすれば「あずければ安心と思って入所させたのに」との思いがあるでしょう。 この火災について、福祉住環境コーディネーターとしての義務を感じ、考察する次第です。 1.いわゆる「老人ホーム」ではありません。「認知症対応型共同生活介護」です。 一部の新聞では「高齢者施設」として報道されていますが、 介護保険上は在宅サービスのひとつとして位置付けられています。 建築法規上の扱いも福祉施設ほど厳しくありません。 認知症高齢者が共同生活し、入浴・排せつ・食事等の介護サービスを受けることができます。 事業所数の推移
1997年度から運営費補助が、1999年度からは施設整備の補助が開始されています。 民間事業者が参入し事業所数が急増。 ゴールドプランの目標に比しても「ここまで増えるか!」というべき数です。 「介護保険財政を圧迫している」とさえ言われています。 2.「やすらぎの里さくら館」 の事業形態、概要
3.グループホームに対する建築・設備上の制限 @建築基準法による 耐火または準耐火とすべき特殊建築物(法27条)によれば、 「病院・診療所・下宿・共同住宅・児童福祉施設等」に該当します。 平屋なら「耐火または準耐火」とする必要はなく、 3階建て以上なら耐火建築物とする必要があります。 ∴「やすらぎの里さくら館」は、耐火または準耐火とする必要がない。 →木造でもOK A消防法による 消防用設備等を設置すべき防火対象物(法2条)では、 福祉施設としても、共同住宅としても、 ∴「やすらぎの里さくら館」の規模ならば、設置すべきは消化器のみ
4.出火当時の状況 ガス設備はなく、火の気はなかったという。 たばこを吸う入居者が1名おり、たばこの火の不始末が原因との推測もある。 宿直の職員1名(当日は代表職員)が勤務中だった。 基準によれば「夜間及び深夜の時間帯は常時1名の介護職員を配置する」こととなっている。 職員の証言 「パチパチという音に目が覚め、リビングに行くと火の手が上がっていた。 消化器で消そうとしたが手がつけられなかった。」 「近くの道路を走っていたトラックを呼び止め、 運転手から携帯電話を借りて午前2時25分頃110番。 大村署の通報で消防が出動。 午前2時45分頃消防車到着 建物はすでに炎と煙が充満。火の勢いが強く、消火活動できる状態ではなかった。
5.総括 法規は最低限遵守していても、防災対策があまりに貧弱であった。 屋根も耐火か準耐火なら、屋根がこれほど燃え焼け落ちることはなかったであろう。 「トラックを呼び止め携帯電話を借りて通報」とはあまりの事態である。 行動マニュアルはないのか。 自身の携帯電話をもって出る余裕もなかったと言うことか。
スプリンクラーがあれば火災は食い止められたであろう。 屋内消火栓設備あるいは自動火災報知設備、非常通報器具があれば、 被害はもっと小さかったはずである。 事実、 「消防法上設置義務がなくても、全館にスプリンクラーの設置を願いたい」 としている自治体(兵庫県など)もある。 今後はグループホームに対する建築・設備の基準が強化されると想像される。 7名の命は代償として大きすぎる。 「少しでも安い費用で施設を立ち上げ、運営する」という、事業者の意図はわかるが、 あまりに危機管理能力が欠如している。 認知症の老人が予測もつかない行動をするかもしれないこと、 災害発生時にはどのような状況になるか、 想像しないのであろうか。 危機管理の鉄則として言われていることである。 「悲観的に準備し、楽観的に対処する」 最悪の事態を想定した設備基準で整備し、 緊急時の行動マニュアルで備え、 訓練しておくべきである。 |