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ときどきコラム

146

2007年11月9日

『被災者生活再建支援法改正』報道に寄せて

新聞記事にお気付きになりました?

「住宅本体の建設費用を支給すること」について

 大連立騒動と言うか、「すわ!政界大編成か」ニュースに紛れて、標記のニュースが6日の夕刊と7日の朝刊にささやかに掲載されました。

 私はこの法律については大きな関心を寄せておりました。

現在校正中の自著【介護保険の住宅改修マニュアル】でも、「コラム1 介護保険で住宅改修費が支給される意義を考える〜「居住福祉」の観点から〜」で採り上げていました。そのため、今回の報道を受けて、急遽このコラムの末尾に一文を書き加えました。

 以下に、このコラム全文を掲載します。

コラム1
  介護保険で住宅改修費が支給される意義を考える
〜「居住福祉」の観点から〜


生存権
  筆者は2001(平成13)年に発足した学術研究団体「日本居住福祉学会」の末席をけがす者です。本学会は次のように主張します。
 住居は
  人間生存の基盤であり、
  基本的人権であり(「居住の権利」=人間にとって住むことは基本的な権利)、
  生活と福祉の土台である。

 日本国憲法25条は次のように規定しています。@すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活をする権利(=生存権)を有する。A国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障、及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
  しかし、悲しいことにこの条文のA国の責務は、1967(昭和42)年、最高裁の朝日訴訟判決で「政策の努力目標(プログラム規定)」とされました。

住宅再建支援の公共性
  この事実を思い知った出来事は、1995(平成7)年1月17日の阪神淡路大震災でした。あの日テレビのニュースを見た衝撃は忘れられません。倒壊したビルディングや高速道路の姿は建築技術者の端くれとして信じられないことでした。日本の建設水準は世界に冠たるものだと信じていましたから。しかし、徐々に明らかになってきた事実こそが本当の衝撃でした。全壊家屋67,000、半壊家屋55,000余棟。犠牲者6,400余名、うち、倒壊家屋による圧死が7割。震災後八ヶ月時点でテント村居住者二千人、運良く(?)仮設住宅に入居してもコミュニティーが分断され・・・災害復興住宅はもとの居住地からほど遠く高齢化率40%超・・そして孤独死は500人近いといいます。
  さらに、その後の新潟県中越地震や能登半島地震、中越大震災をも通して私たち国民が確認しておかなければいけない、この国のすがたは何でしょうか。

 ひとことで言えば、「国は我々を守ってくれない」という事実です。地震のような、個人では抗しがたい災害による被害について、国民を救済する憲法も法律もないのです。
  阪神淡路大震災をきっかけに1998(平成10)年、被災者生活再建支援法が成立しました。しかし、この法律が適用されても、支援されるのは生活関連費と住宅の解体・撤去費用に限られ、再建費用は対象外です。道路や橋など、公共施設を復旧させるための制度はあり、税金がつぎ込まれます。公共財産と私的財産を明確に区別しているわけです。
  しかし、がんじがらめに制度に縛られた中でも希望を見るができます。ひとつは、首長の決断です。
  2000(平成12)年10月6日の鳥取県西部地震は最大震度6強という大地震です。当時の鳥取県知事・片山善博氏は被災地の窮状、特に家屋が大きく損傷し修繕困難な高齢者の「ここで暮らしていけない」という不安を聞き、「このままでは地域が崩壊する」と危機感を抱きます。道路や仮設住宅を整備しても、住宅がなければ、肝心の住民がいなくなってしまいます。「住宅を再建しなければ地域の復興はない」。
  知事は個人住宅の再建支援を決断し、東京の関係官庁に報告したところ「憲法違反だ」との強い非難を受けたといいます。しかし、「憲法のどこに違反しているのか?」と問いただすと答えがなかった。つまり、個人の住宅再建を行政が支援することは法律上の問題はなかったのです。鳥取県は財政の豊かな県ではありませんが、支援の財源として、あるダム建設計画が中止になってストックされていた200億円が充てられました。 
  そして、2007(平成19)年6月現在、11の都道府県が、被災者生活再建についての独自上乗せ制度をもっています。
  さらに、被災者生活再建支援法を見直す検討会の中で、「住まいには公共性があり、住宅を再建しないと都市も再建しない」という意見が出されていることに、光明を見ます。

介護保険で住宅改修費が支給される意義
  住宅の公共性の点から住宅改修費給付について見てみましょう。介護保険は要介護(及び要支援)を保険事故とする社会保険です。介護保険法第2条ではその基本理念を規定し、第4項では次のように「在宅重視」を謳っています。
  保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない。
 
  在宅介護を重視し、要介護者が在宅介護を希望する場合には、在宅で必要なサービスを利用できるようなサービス水準を目指しているのです。
  そして、住宅改修により住宅を要介護者に対応させることは、自立の支援や介護の容易性を計り、さらには介護度の低減や予防、事故防止のためにも有効です。

 「住宅そのものが在宅生活を支え、質の高い生活、尊厳あるいのちを人権として保障することに通じる」この事実がさらに広く深く認識されることを望みます。

追記

本書の出版直前、2007年11月6日付け新聞で、次のような報道がありました。
被災者生活再建支援法が成立見通し』
住宅本体への適用を認める
以下、記事から支援金についての要点
○現行法
最大300万円、使途が限られている
○改正案
見舞金として使途を限定せず定額支給
全壊・・100万円、大規模半壊・・50万円
さらに上乗せとして
建設・購入する場合・・200万円
賃借する場合・・50万円
年収制限は撤廃
2007年1月以降の、4災害にはさかのぼって適用
野党が提出していた住宅本体への適用を含む改正案は、過去4回廃案となっていました。今回認められたのは、参院で野党が過半数を占めたことによる成果です。
「民意を反映する最大の武器はやはり選挙か」と、あらためて思い知りました。
しかし、国が「居住福祉について認識した」とは言えません。さらに強く訴えていく必要を思わされました。

 

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