はじめに 〜本書のねらい〜
筆者は住宅改修の有効活用を願って介護保険制度施行開始の2000(平成12)年に「介護保険で住宅改修」を上梓し、制度改正などを機に四訂まで版を重ねました。しかし、2006(平成18)年度の改正(事前申請制の導入、理由書様式の設定)対応と、住宅改修利用の現状に危機感を覚え、本書を著すことになりました。
制度が活用されていない
現在、住宅改修費支給制度が充分に活用されているとは実感できません。2006年度の改正理由も「保険給付としても、利用者の身体状況から見ても適当でない改修が多いため」とされています。
制度開始から数年は住宅改修の利用率(利用件数/要介護等認定者数)は増えましたが、5年目の2004(平成16)年度から減少し、ずっと10%以下です。私は利用率が少なすぎると感じ、その要因は「多くの介護支援専門員(ケアマネジャー。地域包括支援センター支援センターを含む。以下同じ)が住宅改修を避けている」ためと考えます。(詳細は本文コラム2「住宅改修費支給制度の問題点」参照)
住宅改修を恐れない
筆者は介護保険に関わるすべての人たちに、住宅改修の利用拡大と質の向上に積極的に取り組んで欲しいと願っています。利用者本人・家族、保険者(市町村)、ケアマネジャー、サービス事業者、住宅改修事業者・・・それぞれの役割を認識し全うすれば、必ず有効な住宅改修ができると信じます。
住宅改修の要点(むずかしさ)
本書は、以下の要点を明らかにし、有効な住宅改修がなされることを目的としています。
1.「何のための改修か」が明確か
申請時の必要書類に「改修が必要な理由書」があり、原則は担当のケアマネジャーが作成することになっています。しかし多くのケアマネジャーから「書き方がわからない」「業者が書いてくれるから任せている」との声を聞きます。理由が明確でなければ、手すり一本の取付けも制度を利用することはできません。
2.手段と部材、機材(福祉用具を含め)を知る
例えば、手すり部材には様々な製品があり、知っていなければ手すりの選択もままなりません。便器は今やハイテク工業製品となっています。また、介護保険で利用できる福祉用具にはどのようなものがあるでしょうか。このような知識を更新しておくこと、どこで情報を得ることができるかを知ることは、より良い改修工事のために必須です。
3.住宅改修は家族問題である
「在宅での生活を続けさせたい」という思いがなくては一歩も前に進みません。
本人・家族の要望(demands)と、ケアマネジャーや医療の専門家が判断する必要性(needs)が食い違うこともしばしばです。
家族の同意を得るためには、考え得る最高の提案をし、決断をしてもらわねばなりません。住宅改修に携わる専門家の提案力が問われます。
4.導入時機の見極め
筆者が携わる改修工事の約2割は退院準備です。このように明確な契機がある場合とそうでない場合・・・導入時機をどのように見極めればよいのでしょうか?
「いつでもできる」と思っていると「いつまでもできない」ことになりがちです。日常生活の中で不便なところがあれば、危険と感じるところがあれば、できるだけ早く検討すべきです。本人・家族は「いつか良くなるだろう」と希望的観測を持ちがちです。しかし、検討は進めておき、「いつでも施工できる」状態にしておきましょう。少なくとも、制度を利用したいのであれば要介護認定の申請はしておく必要があります。
5.「だれがコーディネート(調整)し、決定し、責任を負うか」を確認しておく
建築確認を必要とする新築・増築・改築工事ならば設計者(=建築士)が携わり、コーディネート役を務めることもあります。します。しかし、住宅改修だけの小規模な工事ではだれがその任を負うのでしょうか?「Q16 改修内容をどのようにして決定する?」でも触れますが、明確な決まりはありません。家族が施工業者を選定し段取りを進めることもあります。しかし、多くは担当ケアマネジャーがコーディネート役を負うことになります。
しかし、「コーディネート役=決定権者=責任者」ではありません。コーディネート役は、さまざまな関係者の意見を調整し、改修案をとりまとめ、制度の申請と施工の手配を進めます。しかし、すべての段階で決定し、責任を負うのは対象者本人(家族や後見人も含む)です。
もちろん、関係者に何ら責任がないわけではありません。もっとも良い、あるいは次善・次々善に有効と思われる改修案を提案する責任があり、決定がなされたら、実行する責任があります。そして提案者は、その改修工事を活用できるようにする説明責任を負っています。
有効な住宅改修とは
○本人・家族・介護者にとって役に立つ
本人の能力を活かし、安全な動作を助け、導く。 介護の負担を軽減する。
○保険給付をおろそかにしない
介護保険の財源は1/2が保険料、1/2は税金です。つまり、被保険者だけでなく国民皆が醵出しています。小さな工事でも国民皆が負担しあっていると考えましょう。
本書を、住宅改修に携わる皆さんがいつでもそばに置き、現地調査や打ち合わせの場に持参し、活用していただきたいと願っています。制度の改正や新しい工事例は私のホームページで順次紹介していきます。是非とも質問や要望を掲示板にお寄せ下さい。
http://office-nishimura.com
平成19年12月
西村伸介 |