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2004年9月19日
朝日新聞社説「福祉の土台が心細い」に寄せて
体調悪い上に細々したことが忙しくコラムを一ヶ月もサボっていました。
天声人語の盗作騒ぎもありましたが、毎日充実した内容のコラムを書き続けることなんぞ常人のなすべき業ではありましぇん!
と、久々なのに言い訳から始まって申し訳ないです。
申し訳ないついでに、きょうのこのコラムも朝日新聞の社説(9月19日付)引用から。
「また他人のフンドシかよ!」
お許しください。でも、福祉住環境コーディネーター(とその受験者も)必読です。
高齢者福祉の先進国として知られるデンマークの試みは、色々なことを考えさせてくれる。
1987年、自慢だった全室個室の特別養護老人ホームの建設をやめた。代わって力をそそいでいるのが、高齢者向けの賃貸住宅の建設である。
1人用でも、2部屋と広めの浴室を持つ50平方メートル以上のバリアフリー住宅が標準だ。これなら、体が不自由になっても自宅で介護を受けやすい。
そうした低層の集合住宅を交通の便利な所に建てている。外出しやすい場所を選んでいるのは、お年寄りたちに家にこもらず社会に参加してもらうためだ。そうすることで、できるだけ長く自立した暮らしを営んでもらうのだ。
人口530万人の国で、このような住宅が毎年約3千戸ずつ建設されている。民間が建て、自治体が借り上げて管理する。必要なら家賃も補助する。
介護保険が始まった日本でも、在宅福祉が進められていることを多くの国民が歓迎している。しかし、肝心の家が貧しければ、介護の効果が上がりにくい。ときには死に直結することもある。
阪神大震災では、古い木造住宅に住んでいた高齢者が大勢、犠牲になった。災害時だけではない。家の中の思いがけない事故で亡くなった人が、去年1年間で1万1千人にのぼる。つまずいて転んだり、階段から落ちたり、浴槽でおぼれたりした。その8割近くが高齢者だ。
超高齢社会が訪れる前に、福祉の視点から住宅を見直す必要がある。
体の状態に応じて手すりをつける。家の中の段差をなくし、廊下を車いすで通れるようにする。このような住宅のバリアフリー化がなかなか進まない。持ち家でも約3%、民間の賃貸住宅では0・3%と心細い。
東京都江戸川区はこの10年余り、高齢者の住宅のバリアフリー化に積極的に取り組んできた。要介護2以上のお年寄りが自宅を改築する場合、区が費用を負担する。これまでに17億円をかけて約4千件の工事を終えた。老いてからも安心して住み続けてもらいたいからだ。
安全な住宅へ住み替えるには、賃貸住宅を充実させることも大きな課題だ。
自治体や都市再生機構などが建設しているシルバーハウジングは、日常の相談にのったり安否を確認したりする生活援助員が派遣されてくる。だが、今年3月末で全国に1万9千戸しかない。
国や自治体から補助金を得て、民間が建設する高齢者向けの「優良賃貸住宅」
(国土交通省のサイトから「高齢者居住法」を参照ください:西村註)は、やっと2万3千戸になった。
住宅建設5カ年計画の目標は来年度末までに11万戸だ。とても達成できそうにない。
公共事業のなかで、なにを優先するかは国や自治体の決断にかかっている。
質の高い住宅は住む人の健康を守り、暮らしを豊かにするだけでなく、共有財産として地域に蓄積されていく。
あす(9月20日:西村註)は敬老の日。ついの住み家のことも考えてみたい。
この社説の内容は、まさしく私も末席に身を置く日本居住福祉学会のコンセプトである、
「居住環境そのものが、人々の安全で安心して生き、暮らす基盤に他なりません。」に通じるものです。
おそらく、このコラム執筆者は学会につながる方でしょう。
福祉住環境コーディネーターや、住宅建築、リフォームに携わる方は、
「住宅は在宅福祉の基盤」という思いを、忘れないでください。
「住宅は在宅福祉の基盤」
この言葉は、ホームヘルパー養成テキスト・2級過程(長寿社会開発センター発行)にも記されています。
福祉に関わるすべての人たちにも、知っておいて欲しい概念です。